プログラム | 日程:2005年7月29日(金)~31日(日) 会場:函館国際ホテル/北海道国際交流センター 北海道函館市において20年にわたり8週間の「夏期集中日本語・日本文化講座」を行ってきた(財)北海道国際交流センター(HIF)と、日本語の会話能力測定において先駆的な役割を果たしているOPI(Oral Proficiency Interview)研究会が、日本語教育、とりわけ、会話能力測定の研究と開発において文化とその精神性をどう位置づけるかをテーマにした記念シンポジウムが行われました。 テーマ:日本語教育と文化 主催:北海道国際交流センター、日本語OPI研究会、関西OPI研究会 参加費:会員3000円、非会員5000円 (予稿集、30日の昼食を含む) 懇親会費3000円 前夜祭: 7月29日(金) 北海道国際交流センター(HIF)20周年記念行事 於:函館国際ホテル 13:15-15:15 スピーチ・コンテスト (日本語・日本文化講座夏期セミナーのプログラムの一環) 15:30-17:30 パネル 「”道”と日本のこころ」 主催:(財)北海道国際交流センター コーディネーター:佐藤幸宏 パネラー:中島荘牛(書道)恩村宗恭(茶道)船矢雪瞳(華道)ドナルド・ミラー(剣道) 第1日目 7月30日(土) OPIシンポジウム 於:函館国際ホテル 総合司会:堀井恵子 9:30-10:00 開会式 & 挨拶 10:00-12:00 基調講演「語る、聴く、沈黙する」山折哲雄(国際日本文化研究センター所長) コメンテーター:牧野成一(プリンストン大学教授) 12:00-13:30 昼食 13:30-16:30 パネルディスカッション:「文化能力は測れるか?」 (司会:嶋田和子) 13:30-13:35 趣旨説明と構成(司会) 13:35-15:15 OPIにおける文化能力 鎌田修(南山大学教授) アメリカの日本語教育における文化の教育と評価:理想と現実 當作靖彦(カリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授) CEFヨーロッパ言語共通参照枠組み」から「日本語文化能力記述子・評価測定」へ - ドイツ日本学からの貢献 山田・ボヒネック・頼子(ベルリン自由大学準教授) ブルガリアの日本語教育と接触場面を配慮した日本文化・ブルガリア文化の扱い キリル・ラデフ(ソフィア大学助教授) ホストファミリーにおける異文化接触 -その事例の数々- 平出京子(HIFホストファミリーの会会長) 15:15-15:30 休憩 15:30-16:30 パネリスト間、およびフロアとのやり取り 16:30-16:45 休憩 16:45-17:45 「一味違うOPI入門」マニュアルに書いてないOPIのコツ・本質を1時間で伝授します! 山内博之(実践女子大学助教授) 17:45-18:00 OPIネットワーク結成式 18:30- 懇親会(エンターテインメントつき) 第2日目 7月31日(日) OPIデモンストレーションと研究発表 於:北海道国際交流センター 9:00-12:00 OPIの技術と発展 OPIデモンストレーション 牧野成一(プリンストン大学教授) 日本語教授法 -OPIからの提言- 山内博之(実践女子大学助教授) コメンテーター:小林ミナ(北海道大学留学生センター助教授) 12:00-13:00 昼食 13:00-17:00 研究発表 (2会場、12組) 会場A 司会:水本光美、岡田達也 1. 中国語話者の促音の生成実態 ―OPIデータの分析から 松永美千絵 2. KYコーパスでみる日本語学習者の副詞「よく」の使用傾向 萩原孝恵 3. 要求機能を持つ言いさしと対応の連鎖 -日本語母語話者によるインタビューの分析から 荻原稚佳子 4. 日本語OPIのデータベース化をめぐる諸問題 遠藤藍子・鎌田美千子・菅谷奈津恵 会場B 司会:西川寛之、池田隆介 1. 初級日本語学習者による自己表現の可能性―ドラマ的手法を通して 伊東克洋 2. 「うまく構成された議論」とは ―日本語母語話者OPI分析から 木田真理・木山登茂子・長坂水晶 3. 発話を引き出しにくい、引き出しやすいロールプレイとは? 森千枝見・桜木ともみ・中石ゆうこ・渡部倫子 4. OPIのロールプレイにあらわれた断り方 ―韓国人学習者の場合 桜井恵子・斉藤麻子・朴恵成 15:15-15:30 休憩 会場A 司会:水本光美、岡田達也 5.OPIを通して地域で果たす日本語教育 川崎直子 6. ホームステイの夕食時におけるテイル形の使用について 伊藤(横山)美紀 会場B 司会:西川寛之、池田隆介 5. より使いやすい超級ロールプレイカードの作成へ向けて 池谷知子・大林惇子・鳥飼福子・駒井(木寅)裕子 6. OPIロールプレイにおいて「文化」をどう捉えていったらよいのか 西川寛之・堀井惠子・西部由佳 17:00- 閉会 |
第4回OPI国際シンポジウム:函館 【全体報告】 「麗しの函館で」―ハコシン日記 堀井惠子(実行委員長) | 2004年8月、プリンストン大学の美しいキャンパスで行なわれた第3回OPI国際シンポジウムのさなか、牧野先生の研究室で次は日本で、しかも函館でHIF(北海道国際交流センター)との共催でシンポジウムを行なおうという話が浮上・・・「言語教育と文化」という大きすぎる、しかし、タイミング的にはこの辺で正面からしっかりと考えておくべきではないかと思われるテーマを掲げ、関西・東京・九州・韓国・欧州の研究会とのNWも強化したいと大志を抱き、しかし、7月末のまだ大学も日本語学校も授業のある時期に、はるばる函館にいったい何人集まってくれるのか?と内心ひやひやのスタートだった。なぜか「全員でイカ踊りをしよう」と心に決めた。実行委員会を何度も開き、企画を練るためのすごい量のメールが行き交った。 シンポジウムは言語と文化の関係をマクロの視点からミクロの視点へという流れで、山折哲雄氏による心にしみる基調講演「語る、聴く、沈黙する」から、今をときめく精鋭5人が斬り込むパネル「文化能力は測れるか?」へ、そして、シンポジウム定番のOPI入門(山内先生)とデモンストレーション(牧野先生)、さらにOPIから日本語教授法への提言(山内先生)が入り、「しめ」は12本の発表と盛りだくさんの内容がくりひろげられた(詳細は予稿集・報告書をご覧ください)。 おかげさまで200名近くの参加となったが、HIF関係を含み、非会員の参加数が多かった点が今回の特徴である。海外からの参加者の視点や情報も大変貴重だった。参加型シンポジウムを心がけたが、参加者のひとりひとりにとって言語教育と文化についての考えを深める場となれていたら幸いである。 個人的には「日本語教育は日本人のようになることを目的としていいのだろうか」という疑問への手がかりを探るシンポジウムでもあった。反省点もいろいろあるが、研究会のNW強化も含め明日のOPIへ結びつけることのできる、そして笑いの絶えないシンポジウムでもあったので、とても楽しかった。朝市、温泉、八幡坂・・・残念ながら花火と夜景はみのがしたが、函館も少し味わえた。 HIFの皆様、実行委員の皆様、そして参加者の皆さまに大感謝! 2006年8月、第5回シンポジウムはベルリンで行なわれる。乞う、ご期待! |
パネルディスカッション報告 嶋田 和子 | OPIは文化を捨象しているという批判がある中で、我々OPIテスターはどのように文化能力を捉えていったらよいのかを議論することの必要性を感じ、今回のパネルのテーマを「文化能力は測れるか」と致しました。前半は5人のパネリストによる発表、そして後半はフロアとのやり取りタイムと致しましたが、活発に意見交換が行われ、熱気に満ちた3時間は、あっという間に過ぎてしまいました。 HIFホストファミリーの会会長・平出さんは、食文化に焦点を絞って経験に裏づけされた話をして下さいました。鎌田先生は、OPIがインターアクティブな言語活動であることから、文化的側面を十分に考慮した総合的判断の重要性を強調されました。當作先生は、文化能力には測定可能なものとそうでないものがあり、言語行動に付随した文化行動は顕在的なものが多く評価がしやすく、非顕在的な能力の評価は難しいといった点について言及されました。山田先生も可測・不可測領域があるという点では、當作先生と同意見であり、「ヨーロッパ言語共通参照枠組み(CEF)」から「文化能力」をどう考えていったらよいかを提示して下さいました。ブルガリアのキリル先生はノンネイティブの視点から、日本よりむしろ学習者の国で実現する可能性の高い日本語接触場面の研究の重要性について語られました。 最後に「今後の課題および提言」をお願いしましたが、1.接触場面に関する研究を進めること、2.ガイドラインに文化能力を加えることをACTFLに提案すること、3.文化能力の可測部分と不可測部分を明確化すること、4.可測部分の測定方法を研究すること、5.欧州における口頭能力試験開発に貢献すること、6.被験者の視点から研究に取り組むこと、などが挙げられました。今後OPI研究会でもさらに「文化能力」について議論をし、さまざまな研究活動を行っていきたいと思います。 |
研究発表 会場A 報告 徳永 由佳 | A会場「末広」はゆったりとしたスペースがとられ、参加者は発表の聴取に専念できた。発表にはOHPとプロジェクターも有効に使われた。OPIの特性を反映して、動画や音声も利用されており、参加者の理解を助けていた。司会進行はスムーズで臨機応変、出たとこ勝負(!?)のOPIならでは、と感じさせられた。 発表内容は、B会場が主としてOPIにおけるロールプレイについての研究であったのに対し、A会場はOPIのデータ利用に関するものが集められ、テーマが多岐にわたっていたことが特徴である。6つの研究発表はどれも30~40名の参加者を得て行われた。休憩時間に聴衆の出入りが盛んであったことから、みな目的を持って個々の発表に参加していること、A・B両会場で同時発表される研究間でどちらに参加するか大いに迷ったことがうかがわれた。 会場からは質問だけでなく、よりよい研究へのアドバイスも寄せられた。また、発表に関連した研究や実践、参考になると思われる情報なども提示され、発表に膨らみがもたらされた。研究の成果とともに、会場とのやり取りを通して明らかになった今後の課題を、参加者自らの日々の活動に引き寄せて持ち帰ることができたのではないだろうか。 |
研究発表 会場B 報告 坂井 菜緒 | B会場では合計6つの研究発表があった。聴講者もかなり多く(中には立見が出たものも!)、かなり盛り上がった。 特徴的だったのはOPIのロールプレイに関する発表が4つもあったことだ。今回のシンポジウムは「日本語教育と文化(文化能力は測れるか)」というテーマであったが、OPIで文化能力が測れるとすれば、まず考えられるのはロールプレイの中であろう。しかし、実際に相手の文化能力を引き出すのは難しい。これはロールプレイに限らないが、OPIはテスターとしての能力がかなり問われるテストである(このことに関しては「発話を引き出しにくい、引き出しやすいロールプレイとは?」の発表の時、厳しい意見が出た)。その上、言語が変化し続けているのと同様、「文化能力」に対しての認識も世代間などで違いが出てくると思われる。これらの研究発表を聞いて、OPIの、特にロールプレイの難しさをあらためて感じた。 また他にも、ドラマ的手法を授業に取り入れたケースの報告や、日本人を相手にOPIを行って、OPIにおいて「うまく構成された議論」とは何かを分析した発表などがあり、大変興味深かった。 |
シンポジウム運営委員より(1) 西川 寛之 | 第4回OPI国際シンポジウムの具体的な内容などは、他の皆さんが既に詳細にお書きになっているので、運営を通しての感想を書きたいと思います。 まず、第一にHIF(北海道国際交流センター)の皆様の行動力と献身的な態度、丁寧な対応にたいする感謝の言葉から始めたいと思います。もちろん、これはHIFとの共同開催なのですが、事前の会場準備をはじめ、さまざまなことをHIFの皆様にしていただいたおかげで、予想以上の参加者にも対応することができました。ありがとうございました。 さて、大会全体についてですが、HIFが行っているホームステイのホストファミリーをはじめとした方々が日本語教育にも強い関心を持っているということを再確認しました。私は仕事の都合で金曜日の夜に函館入りしたので、スピーチコンテストやパネル「”道”と日本のこころ」に参加することはできませんでしたが、山折先生の講演、パネルディスカッションでは壇上からのお話のほか、会場でいろいろな声を聞くことができました。日本らしさ、函館らしさの「らしさ」を大切にする気持ち、外国人側の気持ちを大切にする気持ち、そして受け入れ側の態度に関する意見など、OPIの関係者だけの集いとは違った貴重な意見を聞くことができました。また、OPIにとってもっとも意義深いものとして、OPIネットワークの結成があり、今後のOPIの更なる発展を感じることができました。 個人的に心残りなのは、ばたばたと走り回っているうちに函館ならではの海の幸を食べ損ねたこと。逆に心に残ったのは、HIFが作成したTシャツを着て歩いたこと。胸と背中に大きな文字で「日本語勉強中」と書かれているもので、これを着て歩いていると、結構多くの人が外国人だと思って「どこから来たの?」と話しかけてくれました。大会の内容が充実していたことは他の皆さんの報告にあったとおりですが、地元の皆様とのふれあいの多い大会であったことも、付け加えて大会運営の感想として報告いたします。 |
シンポジウム運営委員より(2) 池田 隆介 | 大会は成功裏に終わったと思う。大会前の準備などは大変な面も多かったが、本番では目立ったトラブルもなく、非常に円滑な運営ができたといえよう。 成功を支えた要因はいくつかあるが、池田誠さんをはじめとするHIFのスタッフの皆さんの柔軟な対応もその一つとして忘れてはならない。今回は、OPI関係者のみならずHIFからのツテでシンポジウムに参加された方もかなりの人数に上った。受付で混乱するのではないかと思ったが、HIFのスタッフの皆さんが必要な小道具を貸してくださったり、予稿集の不足分を調達してくださったりと、臨機応変に対応していただき、こちらはOPI関係者の受付に集中することができた。それから、個人的にHIFの「日本語勉強中」Tシャツがほしいと思ったので売っていただけないかと交渉したところ、翌日にダンボールごとどっさり持ってこられたのには驚いた。ありがたかった。 また、ホテルで開催したというのも、今回のシンポジウムの大きな特徴として特記しておくべきだろう。大学のような教育研究機関とは違うので、なんとなく落ち着かない感じがしたが、函館国際ホテルのスタッフの方々は大人数の集会への対応は慣れておられるようで、非常に丁寧に細かい部分までこちらの要求に応えてくださっていた。施設・設備も十分であったように思われる。宿泊施設と大会の会場が同じ場所(または、近隣)にあるというのは、利用するほうから見ると迷う心配がないので便利であると感じられる。 その他、実行委員の方々や運営をサポートしていただいたOPI関係者の方々のご助力についても述べたいが、長々となるので今回は割愛させていただくこととする。 懇親会などで函館の美味なものも楽しむことができたので満足している。ただ、何故か一番心に残っているのはホテル1Fのパン屋(利用された方は多いと思う)で買った惣菜パンの味である。西川氏と二人で椅子に腰掛けてあわただしく食べていたことも含め、なんとなくよい趣のある味だった。 |