プログラム | 日時:2004年 8月21日~22日 場所:アメリカ:プリンストン大学 8月21日(土曜日)プリ・シンポジウム/フォーラム 午前の部 非公式OPI 入門 (OPI のデモンストレーション二つ) 8:55 – 9:00 開会のご挨拶 プリンストン大学東洋学部長 Susan Naquin 教授 9:00 – 10:00 鎌田修(南山大学)「OPI入門」 10:00 – 10:30 斉藤真理子(文化女子大学)「OPIデモンストレーション」 10:30 – 10:45 15分間の休憩 10:45 – 11:00 鎌田修 「デモのOPIのレベル アセスメント」 11:00 – 11:30 三浦謙一(Temple University) 「OPIデモンストレーション」 11:30 – 11:45 鎌田修 「デモのOPIのレベル アセスメント」 11:45- 12:00 質疑応答 12:00 – 1:30 昼食 午後の部 シンポジウム 1:30 – 3:00 OPI ビデオ(2本)とその討議 1:30 – 2:30 山内博之(実践女子大学)「OPIビデオ#1 ( 上級)とその討議」 2:30 – 3:30 渡辺素和子((Portland State University) 「OPIビデオ#2 (超級)と その討議」 3:30 – 3:45 15分間休憩 3:45 -4:15 エルヴィラ スウェンダー (ACTFL) 「超級レベルの問題点の討議– 2003 年11月 ACTFL 大会でのトレーナー会議で の討 議結果の報告」(渡辺素和子 通訳) 415 – 5:15 日本、韓国、欧州のOPI研究会会長からの報告 4:15 – 4:45 J-OPI-J (日本) 鎌田修 、堀井恵子(武蔵野女子大学) 4:45 – 5:00 J-OPI-K(韓国) 斉藤麻子 (韓国:明知大学) 5:00 – 5:15 J-OPI-E (欧州) 山田 ・Bochynek頼子(ドイツ: べルリン自由大学) 6:00 – 9:00 学内のProspect Houseでレセプションと夕食会 8月22日 (日曜日) 午前の部 8:55 – 9:00 基調講演者の紹介 牧野成一 9:00 – 10: 00 (+質疑応答の20分) 基調講演 Dr. Judith Liskin-Gasparro (アイオア大学スペイン語科教授) 「21世紀におけるACTFLガイドラインと口頭能力のアセスメント」 (通訳は時間の都合でありません。和文要約をご参照ください。) 10:20 – 10:35 15分間休憩 10: 35 – 10:55 奥野由紀子(横浜国立大学), 三井久美子(京都外国語大学) , 松島弘枝(京都外国語大学), 山田あづさ(京都外国語大学), 山本真知子(京都外国語大学) 縦断的な発話データに基づく「節」の分析 — 上級に現れる「ケド」に着目して– 11:05 – 11:25 ハドソン遠藤睦子 (Michigan State University) 会話における” 不必要な”要素を教える必要 11:35 – 1:055 筒井通雄 (University of Washington) 効果的な遅延型フィードバックのためのエラー分析 12:05 – 1:30 昼食 午後の部 パラレル セッション A: 1:30 – 1: 50 近藤純子 (University of Michigan) OPIにおけるフィラー使用と理由を表わす表現のレベル別特徴。 2:00 – 2:20 荻原雅佳子(早稲田大学), 斉藤真理子(文化女子大学) , 増田真佐子(中央大学), 伊藤とく美 (横浜簿記テクノビジネス専門学校) 上級話者への会話教育の指針 – OPIレベル別特徴の分析から — 2: 30 – 2:45 2:45 – 3: 05 山根恵美 (山陽学園大学) 高校の交換留学生における異文化理解と言語習得 — OPIの談話分析を中心に – 3:15 – 3:35 奥村圭子 初級日本語学習者が使用する達成ストラテジーの階層的変化 3: 45 – 4:00 15分間休憩 4: 00 – 4:20 上村隆一, 水本光美, 池田隆介 (北九州市立大学) 日本語OPI標準モデルの構築に関する研究プロジェクトについて 4:30 – 4:50 浜田正子, 田中ゆきの, Dave Segal (Villanova University) Oral Proficiency Assessment Through Virtual On-Line Learning 5:00 – 5:20 Hisayo Okano Lipton (Stanford University) Introducing Conversational Narrative to the First-Year Students. パラレル セッション B: 1:30 – 1: 50 岡まゆり (University of Michigan, U.S.A.) 比喩表現の使用頻度はOPIレベル判定のマーカーとなりうるか。 2:00 – 2:20 広谷真紀 (Purdue University, U.S.A.) CMC の長期使用による日本語学習者のOral Proficiencyの伸びの検証。 2: 30 – 2:45 15分間休憩 2:45 – 3: 05 庄司恵雄 (お茶の水大学) チェックリスト式評価法を用いた大規模口頭能力測定の有効性の検討。 3:15 – 3:35 荻原章子, 榊原芳美 (Michigan State University) 会話上達のための自己評価プロジェクト 3: 45 – 4:00 15分間休憩 4: 00 – 4:20 松本 – スタート洋子 (University of Edinburgh) A dialogue Model of the discourse Structure for the Oral Proficiency Interview 4:30 – 4:50 根本菜穂子 (Mount Holyoke College) A Pragmatic Approach to -n desu: Merits of Incorporating “Storytelling” in Elementary Japanese 5:00 – 5:20 相田幸江 (University of Texas) Storytelling by Students of first Year Japanese 5:30 閉会のご挨拶 牧野 成一 (プリンストン大学) |
【発表要旨1】上級話者への会話教育の指針 ―OPIレベル別特徴の分析から、まとまりの欠如に焦点をあてて― 発表者・文責:荻原稚佳子 共同研究者:齊藤眞理子 伊藤とく美 増田眞佐子 | これまでに私たちはOPIの各レベルのデータ(全17本)を対象に、OPI各レベルでの具体的な発話の特徴を探ってきた。その研究の結果から、韓国OPI国際シンポジウムでは、中級話者が上級話者になるために養成すべき能力とその指導法について具体的に示した。今回は、それに引き続き、これまでの研究結果から、上級話者の特徴を示した上で、超級話者の特徴との比較から、上級話者に対する会話教育の目標設定を具体的に提示し、実際にどのように指導すべきかを提言した。 上級話者の発話には、超級話者との比較から、「まとまりの欠如」、「抽象性の欠如」、「円滑さの欠如」の3つの問題点が見られた。その中で、特に「まとまりの欠如」の問題を克服するために、①話題に応じて内容を充実させる、②話題に合った構成で話せる力を養成する、③話題について複眼的な見方ができるよう養成することが必要であると考えた。さらに、それらの養成方法として、話題ごとに期待される内容の提示、論理展開パターンを視覚的に提示することによる意識化、抽象的な概念で意見をまとめる練習などの具体的な指導法を紹介した。 詳しい内容については、プロシーディングスをご覧いただきたい。 ***** 荻原 稚佳子さんの感想 ***** 世界中から集まったOPI関係者の皆様に、今年もお会いすることができ、とても楽しく有意義な二日間でした。今回はプリンストン日本語教育フォーラムとのジョイントでしたので、OPIの枠を越えて、米国でご活躍中の日本語教育関係者の皆様とも交流ができました。皆様のパワーに圧倒されながらも、発表や質疑応答から米国での日本語教育の現場を肌で感じることができました。 すばらしい運営をしてくださった牧野先生、プリンストンの皆様に深く感謝いたします。 |
【発表要旨2】中級レベル以下の発話能力を大規模に測る 庄司惠雄 | 現在、野口裕之、春原憲一郎両氏との共同研究で技術研修生のための日本語発話能力テストを開発しているが、この発表ではそのパイロット・テストの結果を報告した。 日本語能力を測定する試験は、紙筆テストではいまのところ日本語能力試験が最も信頼性が高いと思われる。しかし口頭能力試験に関しては、人的・時間的資源を大量に消費することから、よい手だてが見つかっていない。よしんば時間と人手があるとしても、発話標本抽出手続きとその判定過程における2段階の測定誤差は防ぎようもなく、実用性どころか信頼性も妥当性も疑わしい。 日本語能力試験を運用している国際交流基金においてもこの問題はとうの昔から大きな課題になっていて、ETSなんかに比べたらお話にならないほど微々たる予算(失礼!)ながら、少しずつ研究が進められてきた。そこではひとまず1・2級レベルの学習者のニーズから応えていこうというのが基本的スタンスになっている。低いレベルの学習者に対してパーフォーマンス・テストは設計しにくいからである。 ところがどっこい、3・4級レベルの学習者の口頭能力を測定する必要が出てきたのである。技術研修生がそれである。技術研修自体は1・2級ほどの日本語力はひとまずなくても可能である。しかしゼロでいいかというとそうでもない。しかも、研修生たちのコミュニケーション能力習得状況をしっかりあとづけておかないと、実地研修前に実施している初期日本語研修のデザインができない。そんなわけで、このような中級以下の口頭能力の実態を把握し、分析するためのテストが必要になった。 このテストは庄司ほか(2003及び2004)を土台にしている。売りは二つ。一つは発話標本抽出過程における測定誤差を最小化すること、いま一つは判定段階における測定誤差を最小化すること、である。大規模テストでは第一の誤差解消が最大の難関である。どれほど訓練しても生身の試験官が個々に面接している限り、面接者の数だけ妥当性と信頼性が落ちることを防げない。これを克服するには、生身の面接者でなく、機械的に発話を抽出するしか道がない。 次に、どれほど妥当な標本がとれても、判定者のバイアスが測定誤差の主要因になる。この対策としては、判定方法を簡素化するしかないという、わかりきったような結論に達した。判定に熟練を要しない方法を編み出せばよい。とは言い条、これがなかなか難しい。そこで考えついたのが、受験者の言及事項を数え上げることによってタスク達成度の半分を見ようというアイデアである。筆者の言い出した「チェックリスト方式」とは、この程度のことにすぎない。 本実施ではコンピュータによる発題を計画していたが、パイロット・テストには間に合わず、SOPI式にオーディオ・テープから出題することになった。中級以下という受験者のレベルに照らして、初期日本語研修で導入されている二つの技能(①質問への受け答え、②道順案内)及びその後の自学自習によって習得しているかもしれない二つの技能(③情景描写、④所与のテーマに関する自由発話)の計4類で課題を構成した。15分間のテストで最大8分程度の標本が得られるよう設計した。 判定は言及事項数のチェックを主体にして、それに基準を参照して「わかりやすさ」など発話の質を判定する評価を加えた。1標本に教員2名を配し、6組の評価者が計29名を判定した結果、平均約.8という比較的高い評定者間信頼性係数が得られた。しかし、日本語研修にシラバス化されていない技能を含む後半の課題では床面効果が生じた。低い能力の受験者に高いレベルの課題を与えつつ、かつ受験者を差別化するというきわめて難しいハードルが今後の課題になっている。 注)参考文献については、紙面の関係上省略させて頂きます。 ***** 庄司惠雄さんのプリンストン日本語教育フォーラム印象記 ***** 雑踏のニューヨークを逃れペン・ステーションからNJトランジットに乗り一路プリンストンへ向かう。ハドソン川をトンネルで潜ると車窓風景は一変し、南下するにつれ緑濃くなる。プリンストン駅から大学駅へは2両編成の電車でたったひと駅だった。切符を集めにきた車掌のおばさんがきょうはいい天気でよかったねぇと声をかけていった。 キャンパスは公園そのもので、市民や旅人に惜し気なく美しい風景を提供している。フォーラムはそのど真ん中のフリストセンターで行われ、米国内外から100名以上ではと思われるOPI関係者を集めていた。 初日は二つのデモで始まった。インタビュー方法に学ぶところが多かった。続くビデオに収録されたOPIは今後レベルの判定方法を再考するうえで多くの示唆を含んでいた。しんがりスウェンダー氏の講演では超級議論が進みつつあることを知った。 2日目は冒頭にリスキン氏の講演があり、OPIを批判的に論じることを忘れない学術的な態度が参考になった。そのあと口頭発表が14本もあった。 将来的には来場者に占めるOPI関係者の比重がもっと下がり、新鮮かつ多角的な視点からOPIが取り上げられるようなフォーラムになればいい。生みの親である牧野成一先生もそう願っておられるにちがいない。 |
研究発表に関する報告 神山光子 | シンポジウム第二日目の午前中には、日本と米国から、合計3組の研究発表が行われた。 まず初めは、奥野由紀子氏、三井久美子氏、松島弘枝氏、山田あずさ氏、山本真知子氏 (関西OPI研究会縦断研究班)による「縦断的な発話データに基づく『節』の分析―上級に現れる『ケド』に着目してー」で、学習者はどのように結束性や一貫性を強化しながら話す力を伸ばすのかという課題を、「節」という文法単位を用いて、縦断的に観察した。その結果得られた「ケド節」の機能、節数、類似トピックの縦断的比較、個人に見られる特徴的なケド使用を分析し、この「ケド節」の増加は、段落形成を助け、円滑なコミュニケーションへ寄与することにより、発話の向上に貢献しているとの報告がなされた。 次のハドソン遠藤睦子氏(ミシガン州立大学)は、「会話における“不必要な”要素を教える必要」で、「自然な会話」に多くみられる、言い淀み、言いなおし、繰り返し、フィラー、ヘッジ、省略(格助詞・語句)、「ね」などの終助詞や間投詞・間投助詞、「-て」などで終わる不完全文、倒置文、縮約形を含む発音変化、などは“不必要”ではなく、あいづちを含むこれらの適度な使用が、学習者の会話が上手だとみられる重要な要素であり、今後これらを授業に積極的、体系的に取り入れる必要性を強調し、実際に学習者が作成した会話文4例が示された。 最後の筒井通雄氏(ワシントン大学)は「効果的な遅延型フィードバックのためのエラー分析」で、一般的に行われている遅延型FBをより効果的にするためには学習者のエラーの第二言語習得論的分析も必要であるとし、エラーを、①発話中に気付く ②ビデオで見て気付く ③他者にビデオで指摘されて気付く ④指摘されても分からない ⑤正しく言う知識が無いことを自覚していて間違いを予知していて起こす、の5タイプに分類した。そして各タイプ別のFBや自己評価表の使用が、教師と学習者の両者にメリットをもたらすことが実践で明らかになったと発表した。 午後の部は、パラレルセッションA・Bで発表が行われた。 セッションA: ・近藤純子氏(ミシガン大学)は「OPIにおけるフィラー使用と理由を表す表現のレベル別特徴」で、各レベルの学習者および母語話者のOPIデータの比較を通し、①初・中級話者が繰り返すフィラーは2~3種で上・超級では7~9種に及び、上級以上は種類も増す ②初級の「あの(-)」「あ(-)」「んー」、中級の「えー(っと)」上級の「その」「そうですねえ」「まあ」「なんという」、超級の「なんていうんですか」、母語話者の「こう」は各レベルの特徴的なフィラー ③同種のフィラーでも下位と上位レベルで使われ方が違う ④レベルが母語話者に近づくにつれlanguage production-basedフィラーの頻度は低くなり、socially motivatedフィラーの頻度が高くなる ⑤理由の表現は、初・中級は主に「から」「だから」が使用され、上級は「ので」が、超級では「もので」「ものですから」なども加わる ⑥フィラーと同様学習者のレベルが上がるとその種類も増す、との特徴を発表した。 ・荻原稚佳子(早稲田大学)、齊藤眞理子(文化女子大学)、増田眞佐子(中央大学)、伊藤とく美(横浜簿記テクノビジネス専門学校)「上級話者への会話教育の指針-OPIレベル別特徴の分析から-」 ・山根智恵氏(山陽学園大学)「高校の交換留学生における異文化理解と言語習得―OPIの談話分析を中心にー」では、2名の女子高校生の日本語習得を、①発話内容 ②発話の要素(相づち、フィラー、前置き表現、終助詞、待遇表現など) ③作文 で分析し、①日本文化への興味が、異文化理解と受容を容易にした ②異文化適応が会話力のアップ(OPIで3段階)と日本語能力試験3級合格につながった ③婉曲表現や終助詞が使え、対人関係に関わるフィラーは増加したが、終助詞「よ」、待遇表現などは正確とは言えず、相づちも種類は少なかった、との結果を発表した。 ・奥村圭子氏(山梨大学)「初級日本語学習者が使用する達成ストラテジーの段階的変化」は残念ながら不参加であった。 ・上村隆一氏、水本光美氏、池田隆介氏(北九州市立大学)「日本語OPI標準モデルの構築に関する研究プロジェクトについて」では、インタビュー実験データの話者能力別特徴の標準化により、主観による判定誤差を是正し、より客観的な判定基準確立のために、①複数のOPI試験官による日本語非母語話者へのOPI実験と、会話能力レベルの予備判定 ②OPI実験時における画像音声データのデジタル収録と非圧縮ファイリング ③DVDメディアによるビデオライブラリー作成と音声書き起こし作業、の手順に従ってなされているパイロット・コーパスの構築作業過程が、書き起こしテキストと動画コーパスサンプルのデモにより提示された。 ・浜田昌子氏、田中ゆき乃氏、Dave Segal氏(ヴィラノヴァ大学)「アメリカ人高校生を対象にしたバーチュアルオンラインによる口頭テスト:ケーススタディ」では、シンクロナス・バーチュアル・オンラインによる全く新たな外国語教育の利点として、①コミュニケーション重視の活気ある学習環境の提供 ②地理的空間を越え、日本人(または教師)と直接交流可能な場の提供 ③日本人とのコミュニケーションを通して文化理解を深める、などを挙げ、実際にこのプログラムで一年間日本語を学習した高校生を対象に、①従来の口頭面接試験とオンライン上での口頭試験による、学習者の発話や言語活動にみられる違い ②双方の口頭試験に対する受験者の反応と意見の違いを視点として得られた結果が発表された。 ・リプトン岡野久代氏(スタンフォード大学)は「Introducing Conversational Narrative to the First-Year Students」で、学習者の中級(文レベル)から上級(段落レベル)への壁は厚いが、「~んです」「けど」「よ」「ね」などは一年生レベルで習得されていることに注目し、実験的に初級-上から中級-下レベルに口頭ナラティブを教室活動に取り入れ、「うんです」「んですね」「~ですよ」「~んですけど」が持つDiscourse Markerを明示的に紹介した結果、初級後半の学習者では準備なしの口頭ナラティブは無理であるが、ディスコースマーカーの機能を概念的に理解し、使用頻度も増したと報告した。 セッションB: ・庄司恵雄氏(お茶の水女子大学)、野口裕之氏(名古屋大学)、春原憲一郎氏(海外技術者研修協会)「チェック・リスト評価法による大規模口頭能力試験の可能性」 *要旨掲載 ・広谷真紀氏(パデュー大学)「CMCの長期使用による日本語学習者のOral Proficiencyの伸びの検証」では、日本語(4学期目)履修の36名の大学生を3つの条件下(チャット、掲示板、Face-to-face)のグループに分け、さらに3~4人のサブグループに分けて、35分のグループディスカッションを週一回、計10回させ、会話の伸びを8つの指標(タスク達成・情報量・語彙の豊富さ・文の複雑さ・流暢さ・発音・正確さ・話のまとまりと結束性)を用いて主観的に評価した結果が発表された。(学生たちには学期の始めと終わりに会話能力テストを実施した。) ・岡まゆみ氏(ミシガン大学)は「メタファーはOPIレベル判定のマーカーとなりうるか」で、常套的メタファーを慣用的表現と概念的表現に分け、二つのメタファーの表れ方を、各レベル別のメタファーの出現状況、頻度数、誤使用などを基に比較検討した結果、談話における語彙の豊かさを決定するのは、単に抽象的な表現や慣用句の数だけではなく、基本語句をいかにメタファー的に発展させられるかにもあることが判明したとし、これを「比喩力」と命名した。そしてこの「比喩力」の測定は、OPIレベル判断の具体的なマーカーとなることを提言した。 ・榊原芳美氏、荻原章子氏(ミシガン州立大学)「会話上達のための自己評価プロジェクト」 では、日本語母語話者(NJS)との会話を、教師作成の評価表の言語面と心理面を問う10項目で自己評価するプロジェクトの、①学習者の自己評価は妥当か ②学習者は達成感を得ているか、という二点を調査し、①については、会話を聞いたNJS評価の平均点が高かったものと、学習者が最高点をつけたものが一致したことで信頼でき、②についても言語面と心理面の点数を比較し、心理面での評価が高い自己評価の大きな要因になっていると言え、結果この種のプロジェクトが、言語面、心理面において学習者の会話上達に寄与し得ると述べられた。 ・松本-スタート洋子氏(エディンバラ大学)「ダイアローグ・モデルによるOPIの会話構造分析」では、OPIの会話が、会話の機能、「ゲーム」と呼ばれる発話の集合体、発話者の意図などを含む発話の上位レベルからなる「会話の流れ」に焦点をあて、会話の構造分析を行うアプローチに関心を持つConversational Game Theory(CGT)理論の枠組みで、どのように捉えられ、その会話構造の特性がどのように分析できるかについて論じられ、さらに汎語的な方法論としての可能性を検討し、他言語OPIの先行研究によって論じられてきた「OPIは自然な日常会話なのか」という問題が考察された。 ・根元菜穂子氏(マウントホリヨーク大学)「A Pragmatic Approach to んです:Merits of Incorporating “Storytelling”in Elementary Japanese」では、ハワイ大学で行われたワークショップでの「んです」の導入方法を、大学の初級日本語に取り入れた試みが発表された。① 先週末、家に帰りました。「ます体」と② 先週末、家に帰ったんです。「んです体」の違いを説明するのに、「んです体」をSmall talk / Storytellingのようなextended tellingに用いられるdiscourse marker(Yosmini2001) とし、③ 先週末、家に帰りました。レストランへ行きました。友達に会いました。をlist of eventと呼び、④ 先週末、久しぶりに家に帰ったんですよ。それで、家の近くのレストランへ晩御飯を食べに行ったんですね。そしたら、高校のときの友達に会ったんですよ。のような、extended tellingへの移行練習を通した結果をビデオと共に報告した。 ・相田幸枝(テキサス大学オースティン校)「初級日本語学習者によるストーリーテリング」は、初級日本語2(2学期目)の55人の学生がプラグマティックスのインストラクションを受け、思い出に残る経験を第三者に語って聞かせるという上級レベルのタスクに挑戦した結果、「~ですよ」「~ですね」「~ですけど」などのdiscourse markerや「~て~て」の文型、「それから」「そのあと」「そして」などの接続詞の使い方もある程度習得できたこと、さらに終了後の学生たちのこのプロジェクトが言語技術向上にもたらした効果の自己評価・感想・改善されるべき点などの意見のまとめを発表した。 以上合計16もの貴重な研究発表がなされ、またそれぞれの発表に対する質疑応答も活発に交わされた非常に有意義なシンポジウムであった。 |